●今回が初共演となりますが、お互いに抱いていた印象は?
大泉 明るそうな方だなとは思っていました。子供の頃から見ていた方なので。
菅野 ありがとうございます。
大泉 私、石立鉄男さんとのドラマを見ておりまして。
菅野 え?!(ドラマ)「パパと呼べないの!」ですか。
大泉 なんて屈託なく笑う方なんだろうなと思って。周りから聞こえてくるお噂も「明るい方だよ」という話が多くてですね。今回お話自体はとても重たいので、そういう現場になるんだろうなと思っていたら、実際お会いしたらやっぱりとっても明るい方で。「現場に菅野さんが入られたんだな」というのは、控室から聞こえてくる笑い声で分かる。「ひゃっはっはっ!」という笑い声が聞こえてきて、「あ、菅野さん来られたな…」と(笑)。思った通りの明るい方でよかったです。
菅野 今回大泉さんと共演させていただいて、なんという親しみやすさなんだろうと。いい意味でどこか“抜け”があるのも素敵です。本当は私達が共演するんだったら、こういういいお話じゃなくて、コメディやコントの方がよかったかもしれないですね。
大泉 ……そうでしょうか?!
菅野 (笑)。大泉さんっていろんな面を持ってらっしゃるじゃないですか。バラエティ番組もされてますし、歌も歌われてますし、舞台もされて。全方角のことをされてるってすごい才能ですよね!
大泉 いやいや、そんなことはないですよ。
菅野 撮影中もスケジュールがタイト過ぎて、若手俳優の売り出し期間中みたいな(笑)。
大泉 アハハ!(笑)確かにそうですね‥。
菅野 お仕事のオファーが絶えないからそうなるんでしょうけど、年齢的にはもうちょっとスローダウンの年なんじゃないかな?なんて。ちょっと忙し過ぎて心配だなっていうのはありました。でもお会いして思っていた以上にお話しやすくて、同時に思っていた以上に葛藤しながら役と向き合っていらっしゃって。それが同じ役者として共感できましたし、尊敬できる方だなと思いました。
大泉 ありがとうございます。
菅野 現場ではご家庭の話をよくしてくださいましたよね。
大泉 そうですね。お互いに家族の話はよくしましたね。
●今回夫婦役として対峙されてみての感想もお願いします。
大泉 物語自体が辛いお話だったので、現場に菅野さんがいらっしゃってありがたかったですね。役をこうしようとかっていう話は、そんなにしないんですけど。でも役に向かっていく時に気持ちはどうしても重たくなっていくので、そこでスッと菅野さんが横にいてくれると、とっても気が楽になりました。ありがたかった。
菅野 でもなんか照れ臭かったです。コメディとかの方が気楽だよね?
大泉 まあ、そりゃそうでしょうね!
菅野 アハハ!(笑)
大泉 お互いゲラゲラ笑う方だから。
●カメラが回っていない時は明るい雰囲気だったのですね。
菅野 でも大泉さんは私にだけでなく、皆さんに声をかけてくださっていて。役の話をして近付くというよりは、さりげない話をしてリラックスして現場にいられるようにしてくれました。もしかすると特に意識してではなく、自然になさっていたのかもしれないですけど、川栄さん、福本さん、新井さんからすると頼りになるし、気持ちをほぐしてあげていたように見えましたね。
大泉 全然聞かれたこととは違いますけど、今回面白かったのは、僕と菅野さんの差し入れ合戦。
菅野 熾烈な戦いがありましたね!(デレレ~デレレ~♪と自ら効果音)
大泉 ちょっと異常ですよ。菅野美穂はどれだけ差し入れするんだ!って。
菅野 いやいやいや!大泉さんのドーナツも…。
大泉 私は差し入れが好きなんですよ。ところが(菅野も)やたらとするんですよ!
菅野 待ち時間もありましたしね。映画の撮影だから。
大泉 この私が差し入れのペースで押されているという感じがありましてね。
菅野 私も主演の方よりも多く差し入れするのは、ちょっとな……と。そういうのは、よくないじゃないですか。
大泉 主演が負けるわけにはいかないですからね。
菅野 そうですよ!
大泉 だけど毎回持ってくるんですよ!なんだか名古屋のすごく並ばないと買えないような、めっちゃうまい差し入れを。
菅野 マネージャーさんたちと並んで買ってきました。
大泉 これはやばい!と。
菅野 でもそれを大泉さんがこうして面白おかしく言ってくれるでしょ? 普通は食べて終わりじゃないですか。現場でも皆に「いや~やられたよ!」っておっしゃるんです。で、それを上回る差し入れを次回もってくるんです。
大泉 いや、悔しかったから。それで僕も並ばないと買えないドーナツを差し入れしたんです。ただそんなに個数は買えなくて。そしたら菅野さんが、「え~そんな貴重なドーナツなんですか?子供のぶんもタッパーで持って帰ります!」っておっしゃるので、「ダメです!1人1個!」と止めました(笑)。
菅野 (笑)。それでまた場が盛り上がりますからね。「またワチャワチャやってるな」という感じで、月川監督もニコニコしてくれますから。
大泉 その次の日に、またやたらうまそうな差し入れを持ってきてくれて。「また持ってきたの?!すごいね!」って言ってたら、さらに4つくらいあって。そしたら「ご家族のぶんもどうぞ」と! 僕の家族のぶんまで用意してくれていたんです。
菅野 アハハ!(笑)どこまででもいってやろう!と思いました。
大泉 それが悔しくてね……。
●重たい要素もある物語ですが、現場は和気あいあいだったようでほっとしました。
大泉 いやいや、戦々恐々とした差し入れ合戦でした。菅野さんのマネージャーさんが、また何か持ってきたぞ!と。
菅野 うちのマネージャーさんに「大泉さんのマネージャーさんに、次何差し入れするか聞いてきてよ!」って言ったりしてましたね。
大泉 アハハ!(笑)
菅野 組織的にやりましたから(笑)。熾烈でしたよ。終始ピリピリしてましたよね?(笑)「洋風が続くから、次は和風か!?」とか。
大泉 「次は菅野美穂はどのタイミングで差し入れしてくるか!?」とかね。
●家族役の皆さんと一緒に食べていい雰囲気を作るための、差し入れでもあったんでしょうか?
大泉 いえ、家族は関係ないです(キッパリ)。プライドの問題だから!(笑)。家族でいい話をしたいから、ではないです。
菅野 戦いですからね!
大泉 まあ、結局家族の皆で食べましたけどね(笑)。「どれ食べた~?」みたいなやり取りもありました。(インタビュアーの気配を察し)あ、この話もういい?
菅野 時間ないから!
●坪井家の雰囲気についてもお聞きしたいです。
大泉 川栄さんも福本さんも美羽ちゃんも、若いとはいえ……。
菅野 すごくしっかりされてましたよね。
大泉 そうですね。皆さんプロ中のプロでいらっしゃるから、本当にお互いがお互いの仕事をきっちりやるという感じなんですよ。誰かがリーダーシップをとって、「俺たちは家族だ!」ってやる必要もない。本当に自分たちが自分たちの仕事をちゃんとしていたなという感じです。だから現場でキャッキャッといろんな話をしていた、というわけでもなかったかな。特に僕は役について共演者の方とはあまり話さないので、「このシーンはこうだよね」みたいな話をした記憶はないですね。
菅野 確かにそういう雰囲気ではなかったです。
大泉 みんながちゃんとそれぞれの仕事をしていたということに尽きます。やっぱり重たいシーンを撮る時に、本番直前までゲラゲラ笑っているということはない。皆役と真剣に向き合っていますから。
菅野 大泉さんがおっしゃるように、皆さんとても自然な形で。でも私から見ると、大泉さんは福本さんにも川栄さんにも新井さんにもよく声をかけていらっしゃって、それがすごく素敵だなと思って見ていました。「このシーンどう思う?」とかいうことじゃなく、それこそ差し入れを一緒に食べながら「他にどういう食べ物が好きなの?」とか、「この近くにある〇〇って店が有名らしいねぇ」とか……。
大泉 結局食べ物の話(笑)。
●実際の筒井家の方々と撮影前にお会いする機会があったそうですが、どのようなお話をされたのでしょうか。
大泉 それぞれに会ったんだよね。僕は僕だけで筒井家にお邪魔して、わりと長い時間お話しさせてもらいました。
●宣政さんのご自宅の茶室に呼ばれて、ご本人と直接お話をされたとか。
大泉 そうそう。本当に立派なご自宅があって、茶室で話をさせてもらいました。宣政さんの娘さんともお話させてもらいまいたよ。一番最後に、お母さま(陽子さん)が来られて。今回の映画のお話はどうしてもお父さんが中心のお話になっているんだけど、お母さんのお話も印象的でしたね。「母も父と同じくらいがんばっていたんです」というお話を娘さんがしてくれました。
菅野 娘さんの想いがすごく伝わってきましたね。宣政さんのがんばりを映画では丁寧に描いているけども、「母は母でがんばっていたんですよ」とおっしゃっていて。娘さんがそんな風にお母さまへの想いを伝えきてくださるっていうことは、陽子さんは陽子さんで素晴らしい人生なんだなと思います。私も陽子さんとお話させていただきましたが、本当に品のいい方。誰かがお話している時は、目線を下に落として聞いてらっしゃるような控えめな印象でした。でも完成作の試写に娘さんが来ていただいた時に、「振り返ってみると確かにこうでしたが、当時は父親が2人いるような気がした時もありました」とおっしゃっていたのが忘れられません。宣政さんも陽子さんも、それぞれが佳美さんのために情熱を燃やしてらっしゃったんだなと思いました。試写に来てくださったことは、本当にありがたいですね。
大泉 うん。僕が試写を見た時は、既にご家族は一度ご覧になっていたみたいですが、わざわざ会場に来てくれて。あの時久しぶりに家族全員がお揃いになったんじゃなかったかな。確か撮影中は皆では来られなかったから。僕らもそれまで筒井ファミリー全員にお会いするということはなかったので、試写に来てくれて嬉しかったです。
菅野 そうですね。
大泉 「本当に素晴らしい作品になってよかった」と、喜んでくれていました。やっぱりモデルになった皆さんにそう言ってもらえるのが、いちばんありがたいですから。
●皆さんが(佳美さん以外)ご存命ゆえ、その役を演じる緊張感はあったのでしょうか。
大泉 実話ものでいうと僕は昔、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』という映画をやりまして。それも関係者の皆さんがまだ生きてらっしゃるわけです。そういうものをやる時の難しさって、やっぱりありますね。歴史上の人物をやる時は直接的な関係者の方はほとんど生きてらっしゃらないわけですから、言い方が悪いけど、事実かどうかは分からないところもある。だけど今回のような話は、確実にその家族がいらっしゃる。「映画として面白いからいいか」っていうのとは、ちょっと違うと思うんですよ。やっぱりそのご家族の皆さんが納得できるかどうかが大事。そこも加味しつつ、作品として仕上げていく。脚本はこうなんだけど、フィクションの部分ももちろん少しはあるわけで。そこを僕たちはご家族と話していますから、「ここは台本と実話とではちょっと違うな」というのは分かるんです。でも「映画としてはここを攻めたいんだ」っていうところとの間に“橋を架ける”のが、僕らの仕事だから。ご家族も納得する、フィクションとしても成立させる。そこの芝居具合っていうのは難しいですね。どちらも納得いくお芝居で成立させるっていうのは、難しいところだなと改めて思いました。
菅野 でもそれが大泉さんのキャリアと、月川監督のお人柄と……いろいろな意味でうまくいったんじゃないかなと思います。娘さんが準備稿を読まれて、「お母さんはこんな言い方しない」とおっしゃったと聞きましたが、ご家族からしたらそりゃそうですねよと。我々は作品として大切に大切に預からせていただいておりますが、ご家族にとっては大事な思い出を誰かに預けるということだから。それで「思ってたのと違うな」と、ご家族が傷つくのは我々が望むところでは絶対にないですし。そう思うと試写でお会いできて言葉を交わせたのは、本当によかったなと思います。
●お互いの印象は共演されて変わりましたか?
菅野 より親しみを持ちました。
大泉 本当にそうだね。印象自体はそんなに変わらないですよ。現場でもこういう取材でも、「今日は菅野さんがいる」と思うと楽しみです。
菅野 ありがとうございます。番宣のバラエティ番組で「水曜どうでしょう」やりましょうよ!
大泉 (笑)。あれはね、番宣で出る番組じゃない。しかもあれ、オリンピックよりもやらないから。5年に1回くらいだから。だから撮ったものいつまでも放送されない。放送はロケしてから2年後とかですから。
菅野 わ~寝かせますね!
大泉 全然番宣に向かない番組です。「水曜どうでしょう」は一番ないですね(笑)。
●では別の番組で是非。
大泉 別の番組になりますね。
菅野 別の番組は……いいです。
大泉 アハハ!(笑)「水曜どうでしょう」に出たいの?
菅野 はい!
大泉 過酷よ?「水曜どうでしょう」は。
菅野 でしょうね……。
大泉 タイまでカブに乗って、そのまま北海道に帰りましょうとか。
菅野 …もうちょっとライトなやつで。
大泉 (笑)。あまりライトなのがないのよ。
●また共演したいというお気持ちはお互いありますか?
大泉 もちろん。是非是非。
菅野 よろしくお願いします。
●映画を楽しみにしている皆さんへ。
大泉 6月14日から公開になります。「自分の命はもういいから、多くの人を助けてほしい」という佳美の言葉に導かれるように、必死で皆で作った映画でございます。重たい話ではありますけど、でも前を向いて頑張ろうという話でもございますので、多くの方に劇場で見ていただければと思います。よろしくお願いします。
菅野 この映画は実話が基になっておりまして、親の子を想う気持ちが奇跡を起こしたという作品です。きっと親近感を持って見ていただけると思いますので、劇場でご覧いただけたらと思います。どうぞよろしくお願い致します。